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ひのついたかかと

火のついた踵

宮本 百合子

「中央公論」中央公論社、1922(大正11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,781 字 · 34 页

青空文庫

火のついた踵

宮本百合子

人  物

奥平振一郎  統計学者(三十歳)

みさ子  振一郎の妻(十八歳)

橋詰 英一  みさ子の従兄(二十四歳)

谷  三郎  英一、みさ子の友人(同)

吉沢 朝子(登場せず)みさ子の友達(十九歳)

女中 きよ

場  所

東京。

時

現代。或る五月。

第一 奥平の客間

上部の壁や天井は白く、下部を、暗緑色の壁紙で覆うた洋室。

正面は、浅く広いヌック。大きい三つの窓に、極く薄い肉桂色の窓帷が、黒い鮮やかな飾紐で片よせられ、簡素な形のマホガニーの円卓子、布張の椅子、たっぷり薔薇を盛った花壺等が置かれている。

上手の壁際には、大きな金縁の額。書棚。長椅子。重い暗色の垂帳で、隣室と境している。

下手は、一間半ばかり、透硝子のフォルディング・ドーアになっている。前後三尺ずつの壁間は、ヌックよりに彫像、繁った灌木の鉢。下手には、背の高いヴィクター、二人掛の腕椅子等。硝子の折畳扉から差す日が、如何にも晴々と、床に流れ、家具を照し、扉の金色の把手(とって)や、鉢植の新緑を爽やかに耀(かがや)かせる。