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ひのついたかかと

火のついた踵

宮本 百合子

「中央公論」中央公論社、1922(大正11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,781 字 · 34 页

青空文庫

みさ子 (真面目にきき、考えつつ、疑わしそうに)そうお? そうかしら――そういう胸のわくわくするような心持は、恋人同志の時代のものじゃあなくって? 若しかしたら(笑う)恋人前期よ。恋人だって、お互のほんとの愛がわかり、信じられたら、そんなに気は揉まないんじゃあないかしら。勿論、相手の人が、どれだけ自分を愛してくれるか、まして、好きか嫌いかさえ解らないうちなら、不安にもなり、緊張もするだろうけれど。

谷  結婚してしまうと、男も女も、皆そういう楽天家――凡庸主義に堕してしまうから、生活が重荷になるんですよ。大抵の女の人が会って面白いのも、結婚する迄じゃあありませんか。一旦、奥さんになったとなると、誰某アンネックスで、まるで気抜けになってしまう。

みさ子 だけれども、生活が気持よく行くというのは、ただ相手の技巧や「面白い人」許りではなくってよ。面白い人間という人なら、ざらにあるわ。ちっとも面白くない人だっていいから、気持の満干が、ぴったり両方で合うということが大切だと思うわ。

谷  気持の満干そのものが、既に感情の弾力じゃあないかな。活々した流動を起すには、いささかの冒険、心もとなさが、入用だというのです。