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ひのついたかかと
火のついた踵
宮本 百合子
「中央公論」中央公論社、1922(大正11)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,781 字 · 34 页
幕開く。
みさ子、谷、上手の方から悠(ゆっ)くり連立って出て来る。
みさ子 あの薔薇だって、爺やが丹精してくれるから綺麗に咲いたのよ。私も、奥平もいっこう構わないんですもの。
谷 ここはいつも気持がようござんすね。(四辺を見廻し、腰架に掛ける)
みさ子 (離れて立ったまま)英一さんはどうしたんでしょう、直ぐ来るって云いながら――
谷 奥平さんに用があるんでしょう。(皮肉な調子)
みさ子 奥平に? そう? ちっとも知らなかったわ。それならそうおっしゃればいいのに――。妙な人!
谷 そう、くささずに置いてお遣りなさい。あの男は、あなたのことといえば、真剣なんだから。
みさ子 ――(意味を解しかねて谷の顔を見る)
谷 僕が、あなたに勝手な熱を吹くと思って、お冠を曲げたのですよ。然し……あの男の思うほど、僕は「不良」じゃあありませんよ。これでも――(調子を変え)実際、今日のような話が、あなたと出来るとは思いませんでしたね。
みさ子 (谷の心持が解らず)どうして?――別に、何にも、人間のしない話をしたのじゃあないわ。
谷 ――一年昔のあなたは、幸福過て、思いのままでありすぎて、僕なんかには眩しいようでした。