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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

みぞれの降る夜、ふたりは、電気を消して、まっくらい部屋で寝ながら話した。

「さちよの伯父さんは、でも、いいひとだと思うよ。過去のことは忘れろ、忘れろ。誰だって、みんな、深い傷を背負って、そ知らぬふりして生きているのだ。いいなあ。なかなかわかった人じゃないか。あたしは、惚れたね。」ねむそうな声でそう言って、数枝は、しずかに寝返りを打った。

「かえれっていうの?」さちよは蒲団の中で小さくちぢこまって、心細げに反問した。

「まあね。」数枝は大人びた口調で言って、「だいいち、あの、歴史的は、ばかだよ。まさしく変人だね。いや、もっとわるい。婦女誘拐罪。咎人だよ、あれは。ろくなことを、しやしない。要らないことを、そそのかして、そうしてまたのこのこ、平気でここへ押しかけて来て、まるで恩人か何かのように、あの、きざな口のきき様ったら。どこまで、しょってるのか、判りゃしない。阿呆や。あの眼つきを、ごらんよ。どうしたって、ふつうじゃないからね。」

さちよは、くすくす笑った。

数枝も、こらえ切れず笑ってしまって、それでも、

「いやな奴さ。笑いごとじゃないよ。謂わば、女性の敵だね。