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ひのとり
火の鳥
「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页
、と流石にあわて、とにかく、この子が女優になるというし、これは、ひとつ、後援会でも組織せずばなるまい。
☆
成功であった。劇団は、「鴎座。」劇場は、築地小劇場。狂言は、チエホフの三人姉妹。女優、高野幸代は、長女オリガを、見事に演じた。昭和六年三月下旬、七日間の公演であった。青年、高須隆哉は、三日目に見に行った。幕があく。オリガ、マーシャ、イリーナの三人の姉妹が、舞台にいる。やがて、オリガの独白がはじまる。はじめ低くて、聞えなかった。青年は、暗い観客席の一隅で、耳をすました。とぎれ、とぎれに聞えて来る。
――あの日、寒かったわね。雪が降っていたんだもの。――あたし、とても生きていられないような、――でも、もうあれから一年たって、あたしたちもその時のことを、楽な気持で思い出せるようになったし、――(時計が十二時を打つ。)
ゆっくり打つ舞台の時計の音を、聞いているうちに青年は、急にきょろきょろしはじめて、ちえっ、ちえっと、二度もはげしく舌打して、それから、つと立って廊下に出た。
僕は、あんな女は好まない。僕は、あんな女を好かない。あいつは、所詮ナルシッサスだ。