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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

初日が、せまった。三木は、こっそり尾沼栄蔵のもとへ、さちよの様子を聞きに行った。帰って来てからさちよに、君がうまいんじゃないんだ、他の役者が下手くそなんだ、尾沼君は、そう言っていた。君は、こんどの公演で、きっと評判になるだろう、けれども、それは、君がうまいからじゃないんだ、日本の俳優が、それだけ、おくれているということなんだ、そう言っていた。いいかい、ちっとも君がすぐれているわけじゃないんだから、かならず、人の讃辞なんか真に受けちゃいけないよ。叱りつけるような語調で言って聞かせて、それでも、その夜は、珍らしく老母とさちよを相手に、茶の間でお酒たくさん呑んだ。

初日、はたして成功である。二日目、高野幸代は、もはや、日本的な女優であった。三日目、つまずいた。青年、高須隆哉の舌打が、高野幸代の完璧の演技に、小さい深い蹉跌を与えた。

高須隆哉が楽屋を訪れたときには、ちょうど一幕目がおわって、さちよは、楽屋で大勢のひとに取り巻かれて坐って、大口あいて笑っていた。煙草のけむりが濛々と部屋に立ちこもり、誰か一こと言い出せば、どっと大勢のひとの笑いの浪が起って、和気あいあいの風景である。