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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

知っていながら、それでも、もしや、という夢、持ちたいの。持っていたいの。笑わないでね。あたしたち、永遠にだめなの。わるくなって行くだけなの。知っている。ああ、いけない、はっきりきめないで、ね。死にたくなっちゃう。だけど、さちよだけは、ああ、偉くしたい、偉くしたい。あの子、頭がいい。あの子、可愛い。あの子、ふびんだ。知っている? さちよは、いま、ある劇作家のおめかけよ。偉くなれ、なれ。おめかけなんて、しなくてすむように、――」

青年は、立ちあがっていた。

「誰です。どこの人です。案内し給え。」さっさと勘定すまして、酔いどれた数枝のからだを、片腕でぐいと抱きあげ、「立ち給え。いずれ、そんなことだろうと思っていた。たいへんな出世だ。さ、案内し給え。どこの男だ。さちよにそんなことさせちゃ、いけないのだ。」

円タクひろった。淀橋に走らせた。

自動車の中で、

「ばかだ。ばかも、ばかも、大ばかだ。君には、お礼を言う。よく知らせて呉れた。」数枝は、不吉な予感に、気が遠くなりそうだった。「僕は、さちよを愛している。愛して、愛して、愛している。誰よりも高く愛している。忘れたことが、なかった。