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えぼしだけのちょうじょう
烏帽子岳の頂上
窪田 空穂
「早稻田文學 第二百三號」早稻田文學社、1922(大正11)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,432 字 · 15 页
「あれが頂上だろう」
私はそう思って、静かに歩みを移して行った。
岩を伝って下ると、そこには偃松が絶えて、低い草と花の咲いている高山植物の生えつづいたところとなった。そして、崖と反対の側には、この峰の瘤とも見えるような小さな丘が並んでいた。
その丘のほうを見た私は、見た一点を見詰めさせられた。
私の脚もとから、細い、一本の竿の曳く影とも見える影が、草生の上を伸び伸びして、四五間、六七間も伸びて、その丘の斜面を這い上っている。そしてそこに一つの円を映して尽きている。その円を中心に、径一間もあろうかと思われる虹が立っている。空に見るような色彩の多種なものではなく、僅かに青と赤ぐらいではあるが、それは丘の斜面の青い、幾分の靄を含んだ上に、持って行って置いたかのように、じっと、にじみ加減になって映っているのである。
「何だろう?」と私は一と目見た時には怪しんだが、すぐに、自分の影の外の何物でもないと心付いた。しかし、そうした影を眼にしたことのない私には、珍しいというよりは不思議なものであった。
私はその影を眺めていた。薄れもせず、消えもせず、いつまでも映っている。