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からすうりのはなとが
烏瓜の花と蛾
寺田 寅彦
「中央公論」1932(昭和7)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,472 字 · 17 页
今年は庭の烏瓜がずいぶん勢いよく繁殖した。中庭の四ツ目垣の薔薇にからみ、それから更に蔓を延ばして手近なさんごの樹を侵略し、いつの間にかとうとう樹冠の全部を占領した。それでも飽き足らずに今度は垣の反対側の楓樹までも触手をのばしてわたりを付けた。そうしてその蔓の端は茂った楓の大小の枝の間から糸のように長く垂れさがって、もう少しでその下の紅蜀葵の頭に届きそうである。この驚くべき征服慾は直径わずかに二、三ミリメートルくらいの細い茎を通じてどこまでもと空中に流れ出すのである。
毎日夥しい花が咲いては落ちる。この花は昼間はみんな莟んでいる。それが小さな、可愛らしい、夏夜の妖精の握り拳とでも云った恰好をしている。夕方太陽が没してもまだ空のあかりが強い間はこの拳は堅くしっかりと握りしめられているが、ちょっと眼を放していてやや薄暗くなりかけた頃に見ると、もうすべての花は一遍に開き切っているのである。スウィッチを入れると数十の電燈が一度に灯ると同じように、この植物のどこかに不思議なスウィッチがあって、それが光の加減で自働的に作用して一度に花を開かせるのではないかと思われるようである。