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むほうもの

無法者

豊島 与志雄

「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,837 字 · 24 页

青空文庫

「そういう御返事だろうと思っておりましたわ、近頃のあなたの御様子では。」

「様子って、どこかへんなんですか。」

志村はおどけた真似で、顔を撫でてみせた。

「志村さん、すこしお慎みなさらなければいけませんよ。」

急に、房代夫人の調子が変り、そして声が低くなった。

「あなたのお宅には、ずいぶん、女のお客さまが多いそうでございますね。そしてあなたは、朝からお酒を召上ってるそうではございませんか。」

「そうですなあ、考えてみればそんなこともありますが……。」

「まあ、黙ってお聞き下さい、洗いざらい言ってあげますから。ありのままを申すんですのよ。」

志村は肚をきめて、口を噤んだ。両腕を組んで卓によりかかり、靴下の先が焦げるほど火鉢の縁に足をかざした。

「お宅のあの年とった女中さん、あのひとがなんと言っておりますか、御存じですか。うちはいっそ待合にでもしてしまった方が似合っている、そう申したんですよ。」

それは恐らく、あの女中の鶴やの言葉ではなく、外の誰かが言ったことだろう。然し、誰が言ったにせよ、半面の真実ではあった。

「ひとにはやはり、それぞれ贔屓がありますのね。お宅の女中さんたち、旦那さまはいったいどなたが一番お好きなのかしらと、噂をしまして、木村さんがお好きらしいとか、土屋さんがお好きらしいとか、中尾さんがお好きらしいとか