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むほうもの

無法者

豊島 与志雄

「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,837 字 · 24 页

青空文庫

志村はその側へ行き、あたりの人に聞えるぐらいな声で言った。

「来週の月曜日にしましょう。」

房代夫人は平然と答えた。

「やまぶきのことでしょう。迎いに来て下さいますわね。」

「六時頃……。」

「お待ちしております。」

志村は人々の視線を浴びながら、室を出て行った。

志村は房代夫人との約束をすっぽかすつもりだった。フグの茶漬けなどといううまくもないものを食う物好きもないものだし、やまぶきという割烹旅館のことも固よりでたらめである。房代夫人もそれぐらいのことはだいたい感づいてる筈だった。

ただ、志村はなんとなく腹の虫が納まらなかった。房代夫人の打明け話は、彼を侮辱するような毒素を多く含んでいた。彼女自身は恐らくそのことを意識していなかったろうが、それとこれとは別問題だ。

一般女性の浅間しさというものを、志村は漠然と感じてはいたが、直接それに頭をぶっつけた気がした。あの数々の話そのものが、女性の浅間しさを暴露したものであり、そんな話が伝えられてること自体も、同然であった。外にもどんな話が流布されてるか分らなかった。そしてその浅間しさが、志村を侮辱してくるのである。