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むほうもの
無法者
豊島 与志雄
「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,837 字 · 24 页
御結婚のこともゆっくり考えておいて下さいね。ほんとにお似合のかたがございますのよ。あ、そうしましょう、こんど、やまぶきでしたか、やまぶきへお伴しますまでに、お気持ちをきめておいて下さいましね。」
「やまぶき……ほんとにいらっしゃるんですか。」
「ええ、いつでも、日をきめて下さいますれば。」
房代夫人は立ち上った。何の話もなかったかのように、小さな眼に笑みを浮べて会釈し、広間の方へ去って行った。肥満した体の腰が太く、腰から下の姿がずんどうだった。
志村はやたらに煙草を吹かした。泥酔後の深夜、ふと眼覚めて、気恥しいことをぽつりと思い出す、あの気持ちに似ていて、なにか叫びだしたかった。そして腹が立った。
河口と吉岡が通りかかって、志村の前に足を止めた。二人とも少し酔っていた。
「今井夫人につかまってたようだね。」
「なにか意見されたんだろう。」
「あのひと、ちょっとうるさいからね。」
「なぜ逃げ出さなかったんだい。」
志村は返事もせず、そっぽを向いていた。それから黙って立ち上り、二人の方は見向きもせず、広間へやって行った。
今井房代夫人は、数人の男女客の上座について、人々の話に頷いてみせていた。