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ぶらいはうたず

無頼は討たず

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁會講談社 、1936(昭和11)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,446 字 · 23 页

青空文庫

宿あいの空地つづき、荒れた畑の一本桃の花が、音もなくこぼれている、道祖神の祠のところまで来ると、

「――もし、半太郎さん」

と云いながら、娘が一人すっと出た。鼻の猪之助の一人娘で、そのとき二十二、肉付の良い眼の可愛いい小柄な女だった。

「あ、お信さんですか」

「お疲れでございましょう、よく御精がでますことね」

「貧乏暇なしですよ」

「――あのう……」

お信は爪先きを見下しながら、自分でぱっと顔を赧らめた。

「このあいだの手紙、読んで下さいまして」

「ああ拝見致しました」

「――それで……?」

「お信さん、あの手紙は恋文でしたね」

半太郎はたしなめるように云った、「これからはどうかあんな事をしないで下さい、私はこの通りの貧乏商人、母子二人の口を過すのがやっとの事で、まだ嫁をとるの何のと云っている暇はありません」

「待ちますわ、待ちますわ、私……」

「お信さん」

半太郎はきっとなった。

「それは無駄ですよ、いえ幾ら待って貰っても無駄だと云うんです、私は御存じの通り堅気の商人、貴女は立派な貸元の娘さん――とても嫁に来て頂く訳には行きません」

「知っていますわ」

お信はもう半分泣いていた、