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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
んだぞ」
「おれがその忍耐をしなかったか」
「渡貫ひとりじゃあない、おれだって同じように忍耐して来たぜ」
「ではいまの、あの連中の」と渡貫は湖畔のほうへ片手を振った、「――あの軽薄な連中のことをどう思う、あれが藩政改革という、大事に当面している者のふるまいか」
「今日は年に一度の茸狩りだよ」
「茸狩りであろうと桜狩りであろうと、大事を計っている人間なら、論ずべきことはまじめに論ずべきだ、それを、――いや」と彼は強く首を振った、「おれはかれらが娘たちにさそいかけたり、ひそかにしめし合せて、どこかで密会しようとすることを非難するんじゃない、そんな個人的なことはどっちでもいいんだ、おれが肚に据えかねるのは、かれらの本心のあいまいさ、当面している大事に対する無誠実さだ」
「こういう問題では、たいていの場合がそんなものじゃあないのか」
「そうだろう」渡貫は呼吸をしずめ、空へ眼をやりながら云った、「おれもこれまではそう思っていた、事をはやまってはならない、一人の力でできる事ではない、なかまの力を結集し、藩ぜんたいの気運にまでもりあげるのが先だと思った、けれども、いまかれらと話してみて、そんな悠暢な方法ではなにごともできない、ということがわかった」