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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
庄野は箸を持ったままの手を、静かに膝の上へおろし、どこか遠いところを見るような眼つきで、暫く黙っていた。――老女のいよが酒と肴の鉢を持って来、かれらの膳部の上を片づけてから、持って来た物を置き替え、庄野の前にある手のつけてない皿を、どうしようかと問いかけるように又左衛門を見た。又左衛門は、さげてよしと云うように頷き、老女は片づけた物を持って去った。
「うん」とこのあいだに庄野が云っていた、「そんなこともあったな、すっかり忘れていたが、そうだ、たしかにそんなことがあった」
「佐藤が仲にはいって、幸いけがもなく済んだが」と渡貫が云った、「あのときおれたちは、佐藤がよけいなことをすると、内心みんな不平だったものだ、庄野も新原も本気でやるつもりらしかったし、どう勝負がつくかこっちはまたたのしみでね」
「この酒をためしてくれ」と又左衛門が云った、「灘の蔵元からじかに送らせているんだが、酢のきいた物や焼き魚にはよく合うと思う」
四人は肴を喰べ、酒を啜った。
「そんなことはない」と又左衛門が云った、「いや、いまのはたし合の話だが、渡貫も思い違いをしている、あのときは新原も庄野も本気でやる