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つばくろ(つばくろ)

燕(つばくろ)

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页

青空文庫

と梶本がしゃがれた声で云い、咳をして云い直した、「みんなが殆んど、めざしたものを手に入れたいまはどうだろう、誰かこれまでに一度でも、名声や栄誉の輝かしい感動にひたった者がいるだろうか、――庄野はどうだ、佐藤は、渡貫は」

渡貫がなにか云おうとして黙り、庄野は自分の心の中を覗くような眼つきで、なにも云おうとはしなかった。

「少し独り合点のようだが」と梶本は太息をついて続けた、「われわれはみな、目的に向って全力をつくした、佐藤の城代家老は一代交代ではあるが、当人が無能では一代交代も行われはしない、それはむしろ佐藤にとって大きな負担だった、彼はその負担に耐えたばかりではなく、藩史に銘記されるほどの功績をあげた、佐藤は同僚や下役たちの力だと云ったが、同僚や下役たちに充分はたらかせるところにこそ、城代家老の才腕があるのだろう、――こうして、みなそれぞれに力いっぱい努力しながら、一歩一歩と目的をはたして来たわけだが、目的に近づくほど、名声の輝かしさや、誇らしき栄誉というものは遠くなり、庄野の云ったように、そんなものは初めからなかったようにさえ思える