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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
のか、と云いたげな顔つきをしたが、梶本は口に出しては云わなかった。若者たちの歌ごえはやんで、舟を漕ぎだした者があるのだろう、櫓の音が二つ三つ聞えて来た。
「われわれの若い日もここから始まった」と梶本が低い声で云った、「自分たちの屋敷でもなく、城でもなく、ここへ集まったとき初めて、人間らしい若さを感じ、思うままに若さを生き、そうして、ここからおとなの生活へ出発していった、――私にはそう思える、ここにこうして立って、この広庭や、松林や、湖水や、対岸の山なみを見ていると、そのことがはっきり眼にうかんでくるようだ」
「ここは留守番だけで、なにをしても自由だったからな」
「佐藤の気性が昔どおりなら、いまの若者たちも遠慮はしないだろう」
「そうらしい、みんな勝手に庭の松林を通りぬけてゆくし、もっと遠慮のない者は酒や弁当を持ちこんで、小酒宴をひらくことさえあるよ」
「そんなときには」梶本は座敷へはいりながら云った、「湯茶の世話でもしてやるのじゃあないか」
「その障子を閉めてやるくらいのことはするさ」
「年をとっても変らないな」梶本は自分の席に坐った、「勘がするどいだけではなく、感じとった