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はちゅうかんじけん
爬虫館事件
海野 十三
「新青年」1932(昭和7)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,914 字 · 38 页
あの特殊装置というものの中には、きっと血染になった園長の服とか靴とかが隠匿されているのではなかろうか。万年筆は、園長を館の入口で絞めあげるときに落ちたもので、それを後に何かの事情があって遺失品として届けたものであろう。
しかし今横に並んで歩いている西郷副園長が、この万年筆について不審な行動を演っているのにも気がつかないわけではない。第一に三十日の遺失品として届けられたものなら、直ぐにも疑って調べなければならないのが、今まで黙っていたし、一と目みれば園長のものだ位は判りそうなものを何故口を閉めていたのか、嫌な眼付で帆村を覗いたところと云い、ひょっとしたら西郷がすべてを画策し、嫌疑が鴨田にかかるように、わざと爬虫館の前に落して置いたのではあるまいか。園長殺害の方法も死体も判らぬが、原因は勤務上の怨恨又は、失恋でもあろう。そう思って西郷の横顔を見ると、どこやら悪人らしいところも無いでは無かった。
しかし嫌疑薄弱な西郷まで疑うのは、探偵上の恐しい無限地獄へ落ちこんだようにも思われた。園長令嬢トシ子の言葉としても、副園長を疑うことは申訳なかった。でも疑えば、トシ子は鴨田のことを爪の尖ほども言わず、却って西郷のことを弁明した。