轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ちちのかたみ

父の形見

豊島 与志雄

「行動」1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,879 字 · 14 页

青空文庫

嘗て、君の父が流行感冒の高熱と腹痛とで一週間ばかり寝た時のことを、君は覚えているだろう。君も老婢もしきりに心配したが、父は黙ってじっと寝ていて、君たちが側についていることさえ煩さがった。ただ一人きりでじっと寝ている。それだけが父の望みだった。医者が命じた手当さえもしたがらなかった。そして少しよくなると、誰が何と云ってもきかないで、起き上ってしまい、湯にはいったり外出したりした。

そういう父のやり方は、秋山に対する行動と矛盾するように思われるかも知れない。たしかにそこには矛盾がある。然し父にとっては何等の矛盾も感じられなかったのだ。ただ、その時々による図太い落付きが得られさえすれば、それが父の唯一の道楽だった。父が口ずさんだ詩などは忘れてしまうがよい。

正夫よ、この一寸した話が、君に贈る父の形見だ。それならば、こうしたことを君に話す僕は、君の父とどういう関係にあるか。何の関係もない。僕は単なる説話者にすぎないのだ。僕のことなどは忘れてしまい給え。