轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ちちのかたみ
父の形見
豊島 与志雄
「行動」1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,879 字 · 14 页
それは君に対してばかりではない。両親がある時にはその死を、妻がある時にはその死を、彼は幾度か夢想したことがある。そしてこういう種類の夢想は、一の願望にまで高まる危険性が多い。
それは淡い漠然たる反抗であり、孤独放浪の気まぐれな憧れだった。親を捨て、妻を捨て、子を捨てて、何かに随うというような積極的なものではなく、その随うべき何かが全然欠如した、単なる憧れにすぎなかった。そしてそういう憧れは、逆に、愛情の深さ切なさをしみじみ感じさせるものだった。
父は酒に酔って彷徨し、一晩も二晩も家を空けることがあった。その間君は、老婢と二人の生活をさして淋しいとも思わず、よく食べよく眠った。帰って来た父を珍らしげに眺めることさえあった。父はむっつりした様子で、碌に話しかけもせず、新聞や書信に眼を通していた。が、そうしながら、心で君の方をじっと窺っていた。
そして夜、君がすやすやと眠っている時、幾度か、父の手はそっと君の手を握った。
孤独放浪の旅を夢想しながら、君という重荷があるからそれも出来ないという気持でいた父は、まだ仕合せだったと云えるかも知れない。真に孤独になって、放浪の旅がやはり出来ないことを知るのは、悲惨であろう。