轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ちち
父
矢田 津世子
「日暦」1935(昭和10)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,168 字 · 38 页
手をのばしてその紋をひったくってやりたい衝動を感じる。そんな激しい気もちの中で紀久子は新聞に見入っている父の平静な横顔を何かふてぶてしいものに思い、麻の葉ぐるまのおきえと並んだ姿に妙に妬心を煽られていった。
汽車が動き出すとおきえさんは姿勢をなおすとみせてちらりと紀久子の方をみた。眼が合うと困ったようにハンカチで片頬を抑えて俯向きになったが、その仕草がどうもお辞儀をしているように思われたので紀久子もちょっと頭を下げた。
皈りの自動車の中で紀久子はとりとめもなくおきえさんのことを考えていた。麻の葉ぐるまが眼さきにちらついて困った。ふと、あれを母がみたらどんなか、と想像してみただけで胸騒ぎがした。母でなくてよかった、こう思って安堵すると急に力の抜けたような気がしてぐったりとなった。
三
姉の話によるとおきえさんは生粋の新潟美人で、何んでも古街で左褄をとっていた頃父に落籍されたとのことであった。海岸に近い静かな二葉町に家を構えてからは遊んでいても何んだからと娘たちへ長唄を教えていたが、どうせ退屈しのぎの仕事だったから本気で弟子をとるということをせず、父のいる間は気儘に稽古を休むという風らしかった。