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とくしゅぶらくのはんざい
特殊部落の犯罪
豊島 与志雄
「新小説」1922(大正11)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,455 字 · 15 页
ええ旦那さんだなあ。お前、有難えと思わなきゃ済んめえよ。」
だが、久七はその言葉を聞き流しながら、のそりのそり匐い出して、上り口の徳利に取りつくと、喇叭飲みにごくりと一口喉へ流し込んだ。冷たい濃い重みのあるやつが、喉から胃袋から内臓へと、きゅーと泌み渡った。立て続けにも一口飲んで、徳利を膝の上に両手で握りしめたまま、口の中に残った香ばしい後味を、ぴちゃりぴちゃりと舌鼓うった。
「あれ、もう飲んでるのけえ!」
振り向いて頓狂な声でつるが云うのを構わずに、更に一口ごくりとやると、つんと鼻にくる香りから舌重いこくの加減まで、かねて知ってる味だった。鰻や時には鼈や、或は禁を犯して杜鵑など、肺病に利くという魚鳥を捕って持ってゆくと、いつも充分の金をくれた上に、樽からじかにコップへ注いで、野田の旦那が飲ましてくれる酒だった。土間の戸棚の上に置いてある、自分一人のだときまってる、ぶ厚な大きいコップを、久七は眼の前に思い浮べた。
「うむ……旦那が俺がことを聞いたか。」
つるが何とも答えないのを、彼は一人で云い続けた。
「一人者で困るべえって、それでこの酒をくれたか……。