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はんにん

犯人

坂口 安吾

「群像 第八巻第一号」1953(昭和28)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,695 字 · 26 页

青空文庫

真犯人に間違いなしと、去り際の挨拶には益々不気味なほど鄭重に薄気味わるい微笑をのこして去った。人見はただワナワナとふるえるばかりで、ろくに口も利けなかった。

彼の指紋はハートのクインの札に確認された。しかし、まだ容疑者として逮捕されはしなかった。出頭をもとめられて、一応事情を聴取されるに止まった。彼はいくらか冷静をとりもどした。

警察が彼に対して慎重だったのは、一つにはこの容疑の手掛りが警察の働きによって得られたものではなく、地方新聞の特ダネとして先行されたせいもあった。そして新聞がこの特ダネを得たのは無名の投書が発端であることは、その報道で明かにされた。

その投書の主こそ真犯人だ。そしてそれは花井訓導に相違ないと人見は考えた。少くとも、投書の主が花井と判明すれば、それは彼が犯人の証拠だ。事件発生以来の花井の怪しい素振りは、これによって全て氷解するのではないか。

彼は新聞社を訪れて投書を一見しようと考えた。そして早朝のバスで五時間もかかる県都に向って出発した。

そのバスの中では、乗客の全てが彼の容疑の噂をしているように思われて、彼は不安と羞恥に苦しんだ。