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ろうしつき
狼疾記
「南島譚」1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页
しかし、変転しやすい彼の気持は次の瞬間にはたちまち苦い幻滅の底に落ち込み、ふだんより一層惨めなあじきなさの中に自らを見出すのが常である。だから、しまいには、そうした精神の昂揚の最中に在ってすら、後の幻滅の苦々しさを警戒して、現在の快い歓びをも抑え殺そうと力めるようにさえなったのだ。
ところで、今、河岸に沿うて歩きながら、珍しくも、三造の中にいる貧弱な常識家が、彼自身のこうした馬鹿馬鹿しい非常識を哂い、警めている。「冗談じゃない。いい年をして、まだそんな下らない事を考えているのか。もっと重大な、もっと直接な問題が沢山あるじゃないか。何という非現実的な・取るに足らぬ・贅沢な愚かさに耽っているのだ。それは既に人々が夙うの昔に卒業してしまった事柄――あるいは余り馬鹿げ切っているので、てんで初めから相手にしない事柄の一つではないか? 少しは恥ずかしく思うがいい。」「本当に人々はもはやこの問題を卒業しているのだろうか?」と彼の中にいる、もう一人が反問する。
「全然解決の見込のない問題を頭から相手にしないという一般の習慣はすこぶる都合の良いものだ。この習慣の恩恵に浴している人たちは仕合せである。