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ろうしつき

狼疾記

中島 敦

「南島譚」1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页

青空文庫

養其一指、而失其肩背、而不知也、則為狼疾人也。

――孟子――

一

スクリインの上では南洋土人の生活の実写がうつされていた。眼の細い・唇の厚い・鼻のつぶれた土人の女たちが、腰にちょっと布片を捲いただけで、乳房をぶらぶらさせながら、前に置いた皿のようなものの中から、何か頻りにつまんで喰べている。米の飯らしい。丸裸の男の児が駈けて来る。彼も急いでその米をつまんで口に入れる。口一杯頬張りながら眩しそうに此方へ向けた顔には、眼の上と口の周囲とに膿み爛れた腫物が出来ている。男の児はまた向うをむいて喰べ始める。

それが消えて、祭か何かの賑かな場面に代る。どんどんどんどんと太鼓の音が遠くなり近くなりして聞える。対い合った男女の列が一斉に尻を振りながら、それに合わせて動き出す。砂地に照りつける熱帯の陽の強さは、画面の光の白さで、それとはっきり想像される。太鼓が響く。乱暴な男声の合唱がそれに交って聞えて来る。尻が揺れ、腰に纏った布片がざわざわと揺れる。踊から少し離れた老人たちの中心に、酋長らしい男が胡坐をかいている。痩せた・顴骨の出た老人で、頸に珠数のような飾を幾つも着けている。