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ろうしつき

狼疾記

中島 敦

「南島譚」1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页

青空文庫

自分も世俗の人々と同じく、その瞬間までは、無我夢中で、大きなものの中における自分の位置などは全然悟らずに、あくせくと世事に心を煩わして過ごし、(いや、その途中で、一度か二度位は、雑鬧の中で立止って思索する男のように、ひょいと自己の真の位置に気付くこともあるかも知れない。)さてその最後の瞬間に至って、始めてハッとするのだろう。ハッとして、さて、それから、どうなるのだ?……そんな事をあても無く想像して見るだけで、真正面からこれについて考える気力が無く、大掃除を一日延ばしにして怠けている安逸さで、一日一日、それとの直面を惧れ避けているのであった。(それでいて、彼は、「いまだ生を知らず。いずくんぞ死を知らん」などと言った男を憎んだ。「いまだ死を知らず。いずくんぞ生を知らん」と感ずるような素質を享けた人間だってあるんだ、と考えたのである。)いわば、ちょうど小説を読む時に、途中の哀れな事件――主人公がいじめられたりするような――などは読むに堪えず、ドンドン飛ばして先を読もう、結末を知ろうとして、書物の終りの方の頁を繰って見る根気の無い読者のように、――そういう人々にとっては、経過とか経路とかいうものは、どうでもよい。