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ねことしょうぞうとふたりのおんな

猫と庄造と二人のおんな

谷崎 潤一郎

「改造 新年号 第十八巻第一号」1936(昭和11)年1月1日<br>「改造 七月特大号 第十八巻第七号」1936(昭和11)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,020 字 · 131 页

青空文庫

庄造はよく、リリーのことで品子といさかいをした時分に、「僕リリーとは屁まで嗅ぎ合うた仲や」などと、嫌味めかして云ったものだが、十年の間も一緒に暮らしていたとすれば、たとい一匹の猫であっても、因縁の深いものがあるので、考えようでは、福子や品子より一層親しいとも云えなくはない。事実品子と連れ添うていたのは、足かけ四年と云うけれども正味は二年半ほどであるし、福子も今のところでは、来てからやっと一と月にしかならないのである。そうしてみれば長の年月を共にしていたリリーの方が、いろいろな場合の回想と密接につながっている訳で、つまりリリーと云うものは、庄造の過去の一部なのである。だから庄造は、今更手放すのが辛いのは当り前の人情ではないか、それを物好きだの、猫気違いだのと、何か大変非常識のように云われる理由がないと思うのであった。そして福子の迫害と、母親の説教ぐらいで、脆くも腰が挫けてしまって、あの大切な友達をむざむざ他人の手へ渡した自分の弱気と腑甲斐なさとが、恨めしくなって来るのであった。何で自分はもっと正直に、男らしく、道理を説いてみなかったのだろう。何で女房にも母親にも、もっともっと剛情を張り通さなかったのであろう。