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ねこすてざか
猫捨坂
豊島 与志雄
「新文学」1948(昭和23)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页
いつだったか、この坂のコンクリート塀によりそって、誰かが佇んでいるので、じっと瞳をこらすと、その姿は消えてしまった。また、病院側の中段に、誰かが腰掛けているので、じっと瞳をこらすと、その姿は消えてしまった。忘れていたそういう記憶が、今になって蘇ってくる。確かに、この坂には、目に見えない人影がうろついている。そいつが嘔吐したに違いない。
坂の上に立つと、彼方の門灯の明りがかすかにさしてるだけで、御影石の敷石がほんのりと白み、コンクリート造りの崖とコンクリート造りの塀との間に、陰湿な気が深く淀んでいる。
俺は立ち止った。
すぐそこに、椎の木の茂みが闇の中に更に影を落してる中に、ぼんやりと何かの姿がある。誰だ。見つめると、姿は消えてしまった。
俺は眼を外らした。すると、またその姿が現われてきた。見えるのではなく、感ぜられるのだ。それをじっと見ると、姿は消える。眼を外らすと、また現われる。
俺は眼をよそへ向けたまま、其奴の方へ近づいていった。見られるのをきらってるようだから、見てはいけない。
「お前は誰だ。」
「お前は誰だ。」と同じことを言う。
「人に見られるのが、嫌なのか。