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ねこすてざか

猫捨坂

豊島 与志雄

「新文学」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

」

「お前こそ、人に見られるのが嫌だろう。」と逆襲してくる。

「嫌なものか、俺の方をじっと見てみろ。」

「さっきから見ている。なぜ顔をそむけるのか。」

俺は言葉につまった。眼を向けたら、其奴は消え失せてしまうに違いない。俺がそっぽを向いてるのをいいことにして、俺の方をじっと見ているのだ。どうしてくれようか、と考えながら、俺はじりじりしてきて、眼を据えた。視線の真正面に、地下室の古板囲いがある。

焼け爛れた死体の堆積の中から、白骨の手が一本にゅっと突き出ている。白骨の足も一本にゅっと突き出ている。手はどこかへ伸び出そうとしてるようだ。足はどこかへ駆け出そうとしてるようだ。どこへか、その方向がちぐはぐだ。

「早く行け、早く行け。」

囁いたのは骸骨じゃない。すぐ側につっ立ってる姿だ。俺は其奴の方を見てやった。其奴も俺の方を見ている。眼が空洞だ、髑髏の眼※(「穴かんむり/果」、第3水準1-89-51)だけの眼だ。

「あ。」

母の眼じゃないか。俺の方へ無心に向けられていた母の眼じゃないか。

「お前は……。」

言いかけたとたん、其奴の姿は消えてしまった。俺は全身に冷い戦慄を覚えた。