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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
栄さんなんかも生れながらの民話の伝承家ですが。何か日本の精神伝統の関係ですね。そういう点で、矢田という人は、円地その他真杉などという人よりは、まとまり且つ自分の小さい池をどうやらもったというところで生涯を終ったと思います。小さい池に楓の若葉かげも、白雲も、雨のしずくもしたたるという意味で。このひとのは庭上小池でしたが。どこまでも。人のこしらえたもの、ほどよさでまとまったもの。だから、秋の落葉に埋めつくされる、という場合もあるわけです。そうはないようにと、箒を手ばなさなかったところがあるでしょう。
アラ、もうよさなくては。そして御飯たべて出かけるようにしなくては。きょうはネマキもって参ります。もうすこしましなのを、と思っていろいろ思案しておそくなり、やっぱりもとに納りました。これはきっと背中がやぶけてしまうでしょうね。
五月十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
五月十六日
今、午後一時半。この食堂いっぱいに青葉照りとでもいうような、すこし眩しい光線がさし込んで居ります。お話したように、きょうは月番の第一日ですし、米の配給日で、何しろこれはもう一粒もなくなっていたところですから、謹んで内玄関をあけて、居ますヨと表示して待って居りました。