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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
スポーツの訓練がないからよ。静坐的な成長をして。スポーツ精神はあるけれ共、筋だの腱だのが至って大したことなくて残念ね。
八日のお手紙、心からありがとう。あすこには高い空と爽やかな風と、すこやかな人間の息ぶきが流れて居ります。清明な光が透徹して居ります。ああ、実に、云うに任せよ。詩人に生れたものは、おのれの生涯をもって至醇なる芸術とすることしか出来ないのですものね。ダンテにああいう詩を書かせたメジィチ一家は一つのソネットさえつくりませんでした。
人は、極度の侮蔑を感じたとき物を申しません。人は極度のコンパッションを感じたときやはり物を申しません。そして、人間の自然さが流露して、そういうときには、対手をこころから抱擁し、言葉のない情無尽の思いをつたえます。そういうおのずからの表現が不可能のとき、どうしたらいいでしょう。しかも、その一種類の感情ばかりでなく、二つが交り合って打つ場合、人はどういう身ぶりをしたらいいでしょう。
口がきけないという形で一定の時間がすぎます。そして、そのうちに、時間的時間観が、歴史的時間感にすっかり移り、すべてのものが在るべき場所に再び安定し、万象が奇妙に透明になってしまったようなのが癒って、やがて人は口をききはじめます。