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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
などの味に通じたところがあります。トルストイの細君はおそろしい位良人の内部を理解して居りません。こわい、熱烈な、大きいとさかの牝鶏よ、どっさりの子供を翼の下に入れている意識で牡鶏に向ってわめくところがあります、ドストイェフスキーの細君は、つつましいと表現され得る女のひとであるらしい様です。でも、今、一八七二年のこと、という章をよんで、胸うたれ、これを書きたくなりました。この年はドストイェフスキーは「悪霊」を書き終り、それによって彼のスラブ主義を完成したのですが、『市民』という月刊雑誌を或る公爵の出資で出しました。それの仲間があの有名な日曜日を仕組んだポベドノスツェフだったのですって。それを細君は、こういう人達と働くことはドストイェフスキーにとっても魅力のあることでした、と何の罪なく書いて居ります。ドストイェフスキーという人間は、人生に迷って不幸から脱却したいとき、結婚するか賭博者になるかパレスチナへゆくか三つに一つと考えたのだそうです。そして、一つを選びその細君と結婚したのだけれども、最後の「悪霊」は実に意味深長な作品であったと沁々思います、そういう点にふれての彼の伝記はホンヤクされているものではありません。