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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
11 一九四四年(昭和十九年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 174,521 字 · 344 页
先頃のように十分働く必要もないのに、いなくてはならないという雇人の人たちに、奥さんが落付かないまぎれにおだて上げて万事まかしていた状態は、云ってみれば生活でありませんでした。
ほかの友達たちも張合のある気で親切してくれます。自分が、きりもりしていますから、今日は疲れていると思えば、そのように注意して食べ、さもないときは次の用意にまわしておくと、万事一目瞭然で、ほんとうに心持よい暮しです。夜は十時ごろ必ず眠ります、そして眠りは深淵のようです、病気しなかった頃のとおりで、夢もみないという位になり、これもわたしはうれしゅうございます。そして又うれしいことは、誰でもこの家に出入りする人は家の新しい活気をひとりでに気づいて、「一人と思えないわね、何だか賑やかな気分よ」ということです。これは千万言よりうれしいわ。こんなガラン堂のような家が、私の暮す気分で艷をもって家じゅう荒涼とはしないで、却ってしっとり艷があるなんて、どうか旦那様も扇をひろげてよろこんで下さい。その艷は、廊下にゴミがあるということとは別なのよ。廊下にゴミがあったって、其は埃よ。心もちから積んだ沈滞ではないわ。