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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

それを親父が教えたのですって。咲が、そういう点じゃ問題になりゃしないのとひんしゅくします。止めさせる威厳がないのね。そしてそういう威厳があっては妻となっていられないのでしょう。わたしは健坊をつれて客室の方へ来て掃除をしながらおどります、手をふって。健坊も大よろこびでおどるのよ。気がからーりとするらしくて健坊はすっかりいい眼つきになります。おばちゃんよウと呼ぶのよ。ああちゃんよウ、兄ちゃんようと。泰子は全く泰然よ、仰臥したまま七歳となりました。そして健ちゃんは赤ちゃんだと思って、泣くとあやしに行きます、しかし連れられて自分も泣き出すの。話がわかるのよ。お名前は? というと、ナカジョウケンノスケと片言で申します。みんなナカジョウよ、こちらでは。

この九日頃、おみやさんという七十何歳かの老女がここで死にました。この女のひとの一生もきのどくなものよ。でもね、従妹ベットにしろ生活力の明瞭な意力の通った女の生涯は同じ孤独にしろ親類のかかりうどにしろ物語りになるけれど、このおみやさんというように意志がないようで一生気の毒に過した女の生涯は小説にさえならないのね、植木の成長と枯死のようで。