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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

謂わば、人生を実によく見るが、其は窓からである、というような物足りない賢さがあります。アナトール自身はこの「好意ある軽蔑」をもって中世紀末頃のフランスやイタリーの作家のかいた「ディカメロン」その他を、人間らしい健全なものとして評価するために使った要約ですけれ共。やっぱり終りまでよんで見たい作品ですね。

きょう、わたしのこころもちは面白いわ。何と申しましょう。夏の日谷間を流れてゆく溪流のような、とでも申せましょうか。こうして、しっかりしたやや狭い峡を平均された水勢で流れて来た気持が、今ふっと一つの巖をめぐって広いところへ出たはずみに、くるりくるりと渦をまいて居ります。波紋はひろがって、抑える力がないようです。流れの上に、美しい幹のしっかりした樫がさしかかっています。波紋は巖をめぐって出た勢で、大きく大きくとひろがり、渦巻く水の面に梢の濃い緑を映します。やがてその見る目にさえすがすがしい健やかな幹を波紋の中にだきこみました。この底にどんな岩が沈んでいるというのでしょうか、波紋は流れすすむのを忘れたように、その美しい樫の影をめぐって、いつまでもいつまでも渦巻きます。