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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

昨夜は重治さん来て夕飯をたべて、いろんな仕事の話をして愉快。

この夏からこの間までの私の切なかった心持など話しました。丁度、もろい崖から落ちかかっている人が、手の先の力に全身をかけながらじりじりと、もっと堅いしっかりした地質のところへまで体をひき上げて来ようとしている、もろい土のくずれてゆくのと、手の力の持久力と、その全くのろい而も全力的な努力が必要とする時間と、それらのかね合いがどうなるだろう。実に見ていてたまらない。しかも見ているしかないという事情。日夜背中のどこかに力が入っていて、心にゆとりがなくて、実にひどかった。今は何か本当に体をのばしてつっぷしてほーっとするような気持がしています。あなたの今の体のお工合と、そのたっぷりした心持とを感じながら、ああえらかった、と顔の汗を手のひらでぶるんとするような心持。そして、私は今はまあ一寸、こういう心持をも喋って、気をほぐしてよろこばしさと新鮮な感覚とに身をまかせたい心持。

いつかの冬、あなたは春のようだね、春のようだね、と云っていらしたことがあった。覚えていらっしゃるかしら、歩きながら。

今年の冬、私たちは冬をそういうような底流れの感情ですごすのではないでしょうか。