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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
04 一九三七年(昭和十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页
その花が白く咲いたそうです。その花や、大きな茂みになっている赤いバラの花が、今年は広々としたガラス障子越しに見えるわけですが、その障子にガラスをはめた人は、ほかならぬあの縁側のところから、往年泥棒と間違えられて貴方におっかけられた人です。何という罪のない可笑しさでしょう。何と思ってあすこのガラス入れたかしらと思って。その夕方(何年か前の)中気になったお婆さんがあったでしょう? そのお嫁さんが今病気全快して店にいて、帰りに柳井まで一緒に話しながら来ました。
顕さん顕さんと云って皆が私に話します。(タオルもってお辞儀して後は)そして、私は東京のお后さんよ。いつか達ちゃんがお父さんに私をさして「あれだれで」ときいたら、お父さん何とも云えない笑顔で、「ユリちゃん」と仰云った。でも私をお呼びになるときは「東京の、ちょっと来て」です。「お父さん、面倒だからお后のかわりにおユーとおっしゃいましよ」そう云っても今度はまだよ。いつかおユーとおっしゃるかしら。
寿江子が今度はすっかり留守番をしてくれました。昨夜鵠沼へかえりました。一ヵ月以上ここにいたわけ。それから二日ばかり前に伊那からお久さん[自注13]という女中さんが来ました。