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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

それが日本と支那の人力車のあいのこの形をして、白粉をつけた娘が三人も一台にのっていて、友禅の衣類をつけていて、歩いている私ともう一人どこかの女を、大層軽蔑するように俥の上から眺め下して通りすぎました。そんな色の鮮明な夢。心理学者は普通夢に色彩はないと云いますが、私は夢としてすこしはっきりした夢を見るときは、いつもごくはっきりとした色彩を伴っています。

鴎外の、「妻への手紙」というのをよんで、別品だの何だのという古風な表現をよんだものだから、きっとそんな夢で人力俥なんか見たのかもしれない。

『戦没学生の手紙』は、この本に日本訳されていない部分だけロマン・ローランによって紹介されているそうです。やっぱり一つ一つ特殊な境遇に生きた二十三四歳の若々しい心の姿があって、それが多くの幻にとらわれているにしろ、一律の観念に支配されて物を云っているにしろ、哀れに印象にのこるものをもっています。最後に私の心に生じた疑問は次のようなものです。人間が非人間な非合理な生活の条件に耐える力は実に根づよいが、それを正気で耐え得る人間というものも亦何と尠いことであろう。大抵が、何かの観念に逃げこむ。