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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

さあもうそろそろおしまいになりましょう。うちの裏の白い「いちはつの花」が一輪今朝咲きました。鶏の卵は一日に七つか八つ生みます。麦は今年はきれいにのびていて、広島の方は穂がでて居りますが、こちらはまだ。河村さんのうちの横に山羊がいて、それが年よりの男のような声でメエエエと鳴くが、一種妙な淋しさというか、退屈さというかがある声の響ですきでありません。動物の声のくせに、いやに人間っぽいところがある。いやな心持。(本当よ)気の違ったすこし年よりの男が、言葉で何か云えないで、声ばかり出しているようで。上島田の町並はちっとも変りません。周南町とはなっても。もう一度こちらへ手紙頂けるでしょうか。

くれぐれもお大事に。私のかぜは大丈夫です、けれども非常に御持薬を欲します。

四月二十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 山口県島田より(封書)〕

四月二十一日夜  第三十四信

今下へ近所の細君で指圧療法をする人が来ました。それで一寸失礼をして二階へにげ出し。大変挨拶が長くてこちらの言葉で云うと、ハア持てん、から。

去年来ていた間の手紙に、タマという猫が登場しましたが覚えていらっしゃるかしら。