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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

木綿の単衣が段々なくなって、結局又十年前のスカートとブラウスになりそうです、少くともうちにいるときは。お元気で。

八月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(鎌倉建長寺の写真絵はがき)〕

八月四日

建長寺でしょう? 葛西善蔵がいたというところは。昔、鎌倉の明月谷というところに一夏いて、小説かいていたことがあります。そのとき、建長寺も見に行ったのだけれどこんなお寺ではなかったわ。きょう、冬から早春にかけてかいた詩をよんでいて、「祝ひ歌幾日をかけて」という歌をよみかえしていたら、そこに「口紅水仙」の詩のこともかかれて居りました。四季咲きの花は、夏も爽快な驟雨のもとに、水しぶきに濡れながら、花びらにおちるしずくの粒をよろこぶように揺れ咲く様子を、思いおこしました。葉がくれの一本水仙、ほのかなる香に立ちて、という風情。

八月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(箱根宮之下の写真絵はがき)〕

体の工合はいかがでしょう。本当に大丈夫でいらっしゃるのでしょうね、この間は、大丈夫ときいて安心していたのですが段々気にかかり出しました。自叙伝は極めて真面目な深い本です。