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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
今ドストエフスキーのところをよんでいます。この作家の二重性、分裂をそれなりこの作家の特質として、その明暗の間に走る稲妻を作品に見ているところは、大変魅惑的な労作です。しかし最後の「悪霊」ね。あれにはネチャーエフのことが出ているのではなかったかしら。あの大スラブ主義などは果して今よんだらどういうものかと新しい食慾を覚えました。ツワイクは、ドストイェフスキーの存在を、一九〇五年を前告した嵐と呼んでいるのよ。嵐雲のおそろしい気の狂う美しさとしているでしょう。
風邪をひいたのは気候のせいもあるけれども、数日間つきものがして(シャレタひとはデエモンと呼ぶ狐)すこし夢中になって精根をこきつかったからもあるのよ。今、小さいお産を一つしたようなところで、おとなしくなって少しくたびれて、一休みして、気をおちつけて、やがて仕事にとりかかります。
今年のお誕生日は、何をさし上げようかと思っていたのよ。去年は眼もろくに見えず、字もかけず、頭は妙で、その代り一世一代に献詩いたしました。今年は正気でしょう? 詩も出来ないし。そしたら計らず、こういう扉を一つ廻転させまして、あなたならこれをもおくりものとして十分うけとって下さると存じます。