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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
私は何となくがっかりしてね、そういうおじいさんの孫として生れている自分のなかにある無風流さを考えたことがありました。
その時分は、佐藤春夫の祖父や父が詩文や絵の愛好者であるというのをうらやましいように思ったものよ。それからよくぞ自分は風流でなかったと思う時期が来ました。そしておじいさんが、自分の客をとおすところへそんなものをおきたく思った個人的な心持、個人的にむくわれなければむくわれたと思えなかった人の気持(しかも万人のためにと働きつつ)を思いやることが出来るようになりました。
それから全く新しい地盤で、文学の課題として、自分のモラリスティックな素質を考えるようになった時代。そして、この時に到ればもうこれはおじいさんの問題でも自分の問題でさえもないという次第。
一寸話がわき道に入るようですが、ふと荷風の「あめりか物語」(明治四十一年)をよんで、谷崎のロマンティシズムと対比して荷風のねばりのよいのがわかるようでした。谷崎というひとは官能的なのね、情感的デカダンスが荷風であるとすれば、谷崎はもっとずっと人間的には自然発生で、肉体の年齢のままに官能が老境に入るたちの人ですね。