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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
春水と馬琴とのはり合いのことが、馬琴の側のふんがいとして描かれているけれども。春水はくだらなくてデカダンスであったにしろ、文学の発生として雑種でありませんからね、そういうところはあるわけです。
芥川はモラルと芸術性をあの時代らしく対立させ、それを追求はしたが、馬琴に托してしかも馬琴のモラリティーのうしろむきの工合をはっきりつかまなかったものだから、その先には「地獄変」しかなかったわけね。芸術至上主義をああいう形で押し出して、宗教的にしてしまったのね。芸術のために自分の娘をやいてもよいというのは、アブラハムが自分の息子をやこうとしたような、何と旧約風の憧憬でしょう。本をしまってしまってよめないけれども、「『敗北』の文学」の作者はこんな点をどう扱ったでしょうか、みたい気がいたします。
この問題について、私なりの回想があるのよ。小説をかくようになってしばらくして、開成山の家へ行きました。それ迄気づかなかった坐敷の欄間に一枚板に白うるしで細かい漢文が彫ったのをはめこんであります。只字と思ってよめなかったのをそのとき気がついてひろってみたら、おじいさんが開成山開発の事業、猪苗代湖水の疎水事業のためにどんなに身を砕いたかということを書いたものらしいの。