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りそうのおんな
理想の女
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页
そして着物を引き散らしてる私を冷然と見下す。私は赫となる。自分自身が醜く、彼女が憎くなる。彼女がもし子供を抱いていなければ、また殴りつけるかも知れないと自分自身を恐れる。私は出かけようとする。「着物をどうするんです?」と彼女は私を追求する。「勝手に出せというから出したんだ、」と私は怒鳴り返す。冷やかな沈黙が落ちてくる。今にも破裂しそうな反感が募ってくる。危い! 私は外へ飛び出す。
斯くて私の彷徨は初まったのである。私は不在なことが多くなった。そして少くとも初めのうちは、万事がうまくいった。
私はこんな風に考えた。私達が何かにつけて衝突し合うのは、いつも鼻と鼻とをつき合してるからではないかしら。余りにも近くくっつき過ぎてるからではないかしら。会社員みたいな生活が、神経の鋭敏な現代人には最も適してるのではないかしら。良人は朝から会社へ出かけて、必要な糧を稼いでき、妻は家を守って子供を育ててゆく。夕方良人が家に帰ると、一日見なかった妻の笑顔と子供の声と、晩酌の食膳とが、綺麗に整って待ち受けている。食事が済むと、良人は昼間の疲れと食慾の満足とに、もはや眠ることだけしか求めない。