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りそうのおんな
理想の女
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页
私は遂に秀子を殴りつけた。自然の勢で仕方がなかったのだ。
私は晩食の時に少し酒を飲んだ。私達は安らかな気持ちで話をした。食後に私はいい気持ちになって――然し酔ってはいなかった――室の中に寝転んだ。電灯の光りを見ていると、身体が非常にだるく感じられた。秀子は室の隅の小さな布団に、みさ子を寝かしつけていた。その方へ向いて私は、「おい枕を取ってくれ、」と云った。
「しッ! 赤ん坊が寝ないじゃありませんか。」と秀子は答えた。
彼女の声の方が私のよりずっと高かった。眠りかかった子供が眼を覚したとすれば、それは寧ろ彼女の声のせいに違いなかった。然し幸にも子供は眼を覚さなかった。私は我慢して待っていた。所が秀子はいつまでも起き上ろうとしなかった。私は雑誌を五六頁読んだ。それから秀子の方を見ると、彼女は子供に乳を含ましたまま、いつしか居眠ってるらしかった。
私は立ち上って、押入から枕を取り出した。そして押入の襖をしめる時、注意した筈だったが、つい力が余って大きな音がした。秀子はむっくり半身を起した。そして、「静かにして下さいよ、」と云った。
その言葉の調子が如何にも冷かに憎々しかった。