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りそうのおんな
理想の女
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页
」
私は自分の心が静に落付いてるのを感じた。笑いもしなければ、別に驚かれもしなかった。そして冷かに云った。
「お前は、僕が誰かに恋してるとでも思ってるのか。」
彼女は答えなかった。
「僕ははっきり云っておく、僕には他に恋人なんかありはしない。……然し、お前は一体誰のことを云ってるんだ?」
「あなたは、まだごまかそうとなさるんですか。御自分の心に尋ねてみなさるがいいわ。」と彼女は答えた。
穿鑿的な一種の興味が私のうちに湧いてきた。自分に覚えがないだけに、いやに頭が落付いていた。そして私は、知ってる女性の名前を一々挙げて尋ねた。彼女はそのどれにも、肯否の答えをしなかった。然し私が、「では夢の女なんだろう。」と嘲り気味の言葉を発すると、彼女は俄にいきり立った。そして「私に恋人があること」を、遠廻しに立証していった。私が始終出歩いてばかりいること、家に居ても様子に落付きがないこと、然し遊蕩を初めたのではないこと、なぜなら、酒気を帯びて帰ることも稀であるし、一晩も外泊して来たことがないから、そしてまた、女は子供を育てるのみが務めではないとよく云ってること、いやに何かを考え込んでばかり居ること、出かける時の慌しい様子のこと、みさ子に対して冷淡な素振りが多くなったこと、だから、「誰かに恋し初めてるに違いない。