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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

然し彼女はそんなことに頓着しなかった。真正面から私に向って突進してきた。凡ての期待は空しくなった。私は逃げ途を失った。もはや一方の血路を開くより外に仕方がなかった。私は殴りつけた。蹴飛した。而も、私が其処に打倒したものは「彼女の肉体」であって、「彼女」はあくまでもいきり立って私に飛びついて来たではないか!

そういう彼女を、一歩も譲ることを知らない彼女の心を、是非とも挫いておく必要があると私は考えた。そうでなければ、まだこれから幾度も同じことが起りそうだし、その度毎に私は困難な立場に陥りそうだったのである。些細なことから私達は口論をすることがよくあった。二三日後まで反抗的な沈黙を守るほど激しい口論も、何度かくり返されていた。所が此度そういうことが起ったら、もう掴み合いに終るの外はないように思われた。幾度も抑えに抑えられた暴力が、既に飛び出した後だからである。而もそういう暴力の結果はどうであるか? 責任が私一人にかかってくるのみである。彼女は「女である」という便利な楯を持っている。一歩も譲らないで私につっかかって来たこと、不条理に苛ら立ってきたこと、そういう微細な――実は最も重大な――問題は、「殴られた」