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りそうのおんな
理想の女
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页
私が筆を入れた歌は余り先生から誉められなかった。それでも、私も彼女も満足していた。友情とも愛情ともつかない心が、次第にごく静かに深まっていった。その時、私と秀子との暴風のような恋愛がはじまった。それは凡てを吹き払ってしまった。所が間もなく、千代子は十八の秋に、肋膜と横隔膜とを同時に病んで、短い臥床の後に死んでしまった。私は彼女の位牌の前で、しめやかな涙を流した。それには秀子との恋愛の感激から来る涙も交っていた。私は秀子に彼女のことを話した。「あなたはその方を愛していらしたのでしょう、」と秀子は尋ねた。「愛してはいたような気がする。然し恋してはいなかった、」と私は答えた。其後私達は二人で、千代子の墓参りをしたことがあった。――その千代子のことを、私はふと夢みるようになった。何故だか私は知らない。恐らくは、理想の女を求めあぐんでいた私の心は、記憶の隅々までを漁って、気まぐれに彼女の色褪せた姿を捉えてきたのであろう。なぜなら、やがて理想の女と彼女の幻とは、私の頭の中で一つになってしまったから。
私は屡々その夢をみた。何れも、何等の場面も事件もない、断片的なものばかりだった。