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こはくのパイプ
琥珀のパイプ
甲賀 三郎
「新青年」1924(大正13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,109 字 · 37 页
思い切ってその窓を離れた彼は、更に新橋の方へ歩みを進めて、今度は大きな時計店の前に佇んだ。彼は又金側時計が欲しいと思った。然し無論買うのではない。それから彼は稍足を早めて、途々「買わない買物」の事を考えながら、新橋を渡り玉木屋の角から右に曲って二丁許り行くと、とある横町を左に入ったのであった。その時、彼はふと右手を上衣のポケットに入れた。何やら覚えのない小さなものが手に触れたので、ハテナと思いながら取り出してみると、小さな紙包である。急いで開けると、あ! 先刻欲しいと思った黄金製カフス釦じゃないか。彼は眼をこすった。その途端左のポケットにも何やら重味を感じた。左のポケットから出たのは、金側時計であった。彼は何が何やら判らなくなった。恰度お伽噺の中にある様に、魔法使いのお蔭で何でも欲しいと思うものが、立所に湧いて出ると云うような趣だった。然し彼はいつまでも茫然としていられなかった。彼の時計を持って居る手は、後から出て来た頑丈な手にしっかり握られた。彼の後には大きな見知らぬ男が立っていたのである。彼はこの見知らぬ男と共に先刻の洋品店に行くべく余儀なくせられた。