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いきているかんばん

生きている看板

小川 未明

「早稲田文学」1927(昭和2)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,965 字 · 6 页

青空文庫

」と、いいました。

はたして、この看板は、世間のうわさに上った。

「あれは、鬼を描いたんでしょう。」

「いや、あんな、美しい鬼というものは、ありませんよ。やはり、美人を描いたので、顔は、こんなに美しくても、心は、鬼だということを現したものでしょう……。」

「しかし、なかなかあの角は、愛嬌がありますね。」

「そう、あんなに顔の、美しい鬼があれば悪くありませんな。」

人々は、看板の絵を、さながら生きている人間を批評するように、とりどりにうわさをしたのでした。

いつのまにか、菓子屋の看板の美人は、この町の人たちの仲間入りをして、りっぱな存在になったのであります。

村の人たちも、看板を目標に、道筋などを語るようになりました。しかし、これを描いた兵蔵は、それから転々して、どこへか移っていってしまった。いつしか、兵蔵のことは忘れられて、だれもいわなくなったけれど、彼の描いた、菓子屋の看板はその後長く、ものをいわない人間のごとく、生きていて、町の名物となっていました。

――一九二七・一〇作――